いとしのソヨン ☆☆☆☆☆☆☆
イ・サンユン出演作を漁るように見ています。2012年の作品で50話もあるので躊躇しましたが、本当〜に見て良かったです。
ちなみに原題は「내딸 서영이」ネッタルソヨンギ 我が娘ソヨン、です。
「내 」→私の NE
「딸」→娘 TTAR
「서영」→ソヨン SO YONG
「이」→語調を整える「イ」 I
日本での放映時、「私の娘コンニム」という作品と時期が近かったため、邦題に手を加えたようです。「いとしのソヨン」というタイトルからは恋愛メインのドラマをイメージしてしまいそうですね。もちろん恋愛はドラマの大きな柱ですが、タイトルの通り、父が娘を見守るというのも大きな柱となっています。
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以下、今回は長文&そこそこネタバレあり。
ソヨンは法律を勉強する大学生。
イ・ボヨンが演じています。
子供みたいな体形と、派手じゃない顔立ち。それでいて性格は結構頑固です。
双子の弟、サンウは医者を目指しています。
パク・ヘジン目当て視聴の方も多かったはず。
2人の父は人生一発逆転を狙って借金を重ねるダメ父です。
…とソヨンには映っていますが、いろいろ空回りしているだけでそうひどい父でもないし、娘への愛情は人一倍です。
演じるのはチョン・ホジンさん。
この方に“若い頃”はあったのでしょーか。生まれた時からオッサン容姿だったのではと疑ってしまうほど、庶民の父イメージです。「黄金の私の人生」や「トンイ」でも庶民の父を演じています。
母親が心臓発作で亡くなるその日、父はギャンブル。倒れてからの発見が遅れてしまいました。父への嫌悪をますます募らせつつ、バイト代は借金返済に充て、自分は休学してでも弟の学費援助を優先します。
そんな折、家庭教師のバイトを始めたソヨン。金持ちバカ息子の典型でしたが、ソヨンのお蔭で成績が急上昇。住み込みでと懇願され、財閥2代目社長のカン家に居候することになります。
バカ息子はCNBLUEのベース、イ・ジョンシン。
男まさりの長女。のちにストーリーに絡んできます。
カン家の長男、ウジェがイ・サンユン氏。
ウジェは留学後に入隊、除隊したばかりで一時的に実家に身を寄せていました。稼業を継ぐ気はサラサラなく、近日中にアメリカに戻る予定のウジェは、頑固で無表情なソヨンに敵対しつつも惹かれていきます。差し入れしたり、映画やお笑いに誘ったり。アメリカ出発もズルズルと延期します。
「2度目の二十歳」で見せた、素直じゃない愛情表現の上手さ、ベースはここにあったのですね。
貧乏で生きることに必死のソヨンは、同情されることに敏感です。
ソヨンはウジェの愛を同情であり自己満足を得たいだけだと斬り捨てますが、ウジェは「お腹いっぱいにさせたい、ぐっすり眠らせたい、笑わせたい、その気持ちが何なのか、俺だって知りたいよ。教えてくれよ。」と食い下がります。
さて、無理やり政略結婚させられそうになったウジェ、今まで拒み続けてきた「父の会社を継ぐ」という条件と交換に、ソヨンとの結婚を家族に認めさせてしまいます。ウジェとの結婚なんて現実的に有り得ないと思っていたソヨン、かつて「お父様は何をなさっているの?」という質問に、「父はいません」と答えてしまっていました。その頃の父はホストまがいの仕事に就いており、真実を話して見下される必要なんかないと思ったからです。
結婚話が進んでしまい、弟からは「真実を告げるべき」と諭されますが、とてもそんな雰囲気ではありません。父親を「いないこと」にするなら、弟の僕も「いないこと」にするんだな、と絶縁されるソヨン。結婚式当日、客席には、招待客のフリをするバイトに雇われた父の姿が…
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脚本は「2度目の二十歳」と「黄金の私の人生」のソ・ヒョンギョン。「同情」というテーマを扱うのが得意な脚本家さんとお見受けします。同情と愛情の違いって何だろうと真剣に考えてしまいました。(一応私の結論は出ました)。
冒頭でも述べましたが、これは父から娘への愛情物語です。このとーちゃん、本当〜にお金持ってません。娘からは超・嫌われ、婚家先では死んだことにされてます。そのとーちゃんがソヨンのためにできることとは…
「2度目の二十歳」と「黄金の私の人生」2作品とも、男に媚びることをしない芯の通った女性、自分をさらけ出さないミステリアスな女性が主人公ですが、「いとしのソヨン」は特に際立っています。
感情を封印するのが癖のソヨン。ソヨンを笑わせたい、いや、怒らせてもいいから人間らしい感情を自分に向けてほしいと願うウジェ。結婚できたことが嬉しくて、3年が経過してもなお、周囲が呆れるほどの愛妻家です。
作品中、ソヨンと対照的な女性たちが登場します。感情のままキーキーとわめきたて、夫に自分の言うことを聞いてもらおうとする妻、策を巡らせ、自分のことしか目に入らない女性。彼女たちの結婚生活や恋愛はなぜか上手くいかず、一流の男性、ウジェを惹きつけて止まないソヨンのカリスマ性の秘訣を知りたがります。
さて、ここで非常に興味深いキャラがホジョンです。そこそこお金持ちの家庭で育ちますが、親が決めた進学→お見合いコースに全く乗ることができません。ソヨンの弟、サンウを追いかけ続け、ほとんどストーカーで最初はイライラしました。
しかしホジョンにエゴはなく、サンウに彼女がいると知るや、2人の関係を応援さえします。
計算がなく、自己犠牲を厭わないマリア様のようなホジョン。遠藤周作の「わたしが・棄てた・女」の森田ミツを彷彿とさせ、中盤は主役ソヨンを食ってるんじゃないかと思えるほどの存在感でした。
あと、この物語は双子の物語でもあります。ソヨンとサンウ、2人の結束は数年連絡を取り合わずとも強固につながっています。幼い頃のつながり、大人になっても続く献身、という点では東野圭吾の「白夜行」を思いながら観ました。パク・ヘジンのサンウ役は神がかり的でした。ウジェからすれば、愛する妻が必死に隠す弟、妹を夢中にさせたあと斬り捨てた張本人…
レストランの前ですれ違ったり、電話で声を聞いたことはあるけど、なかなか姿を見せないサンウ。ようやく登場した男の容姿があんなミステリアスな美貌だったらと思うと背中がゾワっとしました。(まぁ視聴者は最初から知ってますが)
ソ・ヒョンギョンの脚本のもう一つの特徴として、ウソを自分から白状するのと、周りからバレてしまうのとでは全然違う、というストーリーの組立があります。「黄金の私の人生」では娘をすり替えた母の罪、「いとしのソヨン」では父をいないことにした娘の罪を、それぞれ償う準備をしている最中に周囲にバレて大ごとになります。
最初に気づいたのはウジェ。呆れるほど愛妻家だったウジェは、ソヨンのウソに傷ついた以上に、ソヨンが自ら白状しないことに悲しみと焦りを覚えます。周りからバレた場合、プライドの高いソヨンは結婚生活をあっさり打ち切るに違いないと思うからです。
苦悩するウジェはわざとソヨンに冷たく当たり、自ら白状するよう仕向けます。ウジェにバレたことに気づいていないソヨンは、急に変わってしまった夫に無意味に尽くします。ウジェの気まぐれな発言に振り回され、職場に辞表を出してみたり、取り返してみたり。その4話ぐらいの間は観ているこちらの体調にも影響するほどでした。冷たいフリどころか、マジ冷たいんですよ、ウジェ。
バレていることが分かった後のソヨンは、一切言い訳をせず、それどころかウソの背景となった事情を隠すために「お金目当てだったからよ」などの捨てセリフを吐き、離婚をあっさり承諾します。(この辺りは痛快で、私の体調も一気にUPしました)
この後のラブラインの運びは「2度目の二十歳」と似ていて、ガンガン責め続けるウジェが最後ちょっと引いて…って、これ以上語るのはやめましょう。
とにかくハマって50話見終わるまで寝不足でした。文句なしに☆7つなのですが、違和感を覚えた箇所もなくはないです。
父の存在を隠して結婚したことって、そこまで重罪かなと。嫁に騙されたと発狂しまくる家族に、そんなの事情があるに決まってるじゃん、事情を言わないってことは言えない事情なんすよ、それ以外はパーフェクトな嫁なんだからいいじゃん、もうそのへんで許してあげたら、などなど思ってしまいました。個人主義のアメリカでこのネタでドラマを引っ張るとしたら20分がせいぜいでしょうが、このドラマでは4話ぐらいいろんな人物が発狂しまくった後も許せなくて苦しむのですから。韓国では家制度が我々日本人が想像する以上に生きているということなのかな。
(許しの過程も、自分も似たような状況を経験したり、父本人からの説明があったり、ソヨンにしてもらったことを思い出したり、まぁいろいろ長い経過が必要でめんどくさい。)
許しのトドメはソヨン父の「偉業」なのですが、え、ちょっと待って、それってソヨン自身の人格とは関係ないじゃん。個人主義のアメリカドラマだったら(以下略)。
他にも、たった3家族で人間関係の輪が完結してるってどうなのよ!?って、まぁこれは韓国ドラマあるあるですがー。
50話もあるドラマは「女を泣かせて」以来です。普段20話程度のものを選んで観ているので、さすが50話モノは深いなと思ったのですが、50話だから深いというわけではなく、この作品は当時から「よくできたドラマ」と評判だったようです。
そして主役のソヨンにはいろいろと影響されてしまいました。頑固な美しさというか、選択肢がないことで、逆にブレない強さというか。
婚家で3年も気を遣って生活していたソヨン。
離婚はソヨンを解放するためでした。離婚が成立した瞬間からの猛烈アタック…
イ・サンユンさん、容姿にクセがあり、ダメな人はダメでしょうが、ドハマリ中の私にはぴったりのドラマでした。
一人暮らしを始めたソヨンが、キムチを小皿に盛り付けようとしてやめたり、脱いだ服を片づけようとしてやめたり、そんな細かなシーンも好きでした。
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